私たちは当初、北白川の銀月アパートという木造アパートの一室に3人で寿司づめの状態になりながら仕事をスタートさせました。そのアパートは大変古く、ぼろぼろの状態でしたが、不思議と心がおだやかになる場所でした。
断熱性能はとても低い建物でしたが、そこには「豊かなるもの」が確かに感じられました。それは、基本的に木と土でできている建物が、だんだんと朽ちていって建物自体が自然物に近づいているせいではないか?そんな思いがよぎりました。
建物の中ではスリガラスを通した光が印象的に感じられ、中庭に面した廊下では風が吹き抜けるような気持ち良さがありました。また、春には大きなしだれ桜、秋には、紅葉というように四季の変化が生活の中にあり、一年を通して、疎水の流れる音と鳥の鳴き声を楽しむことができました。
こうして考えると「豊かなるもの」は常に建物の外にあり、建物は束の間、をそれをキャッチして生活の中にとりこめるような作りが良いのではないかと思わされました。
省エネルギー性能という言葉を聞くとき、常に全く違うベクトルのこととしてこのことが頭に浮かんできます。
ほどなくして、現場で余った材料やサンプルなどで銀月アパートの1室が足の踏み場がない状態になり引っ越すことに決めました。
ルームマーケットのOくんに連絡して、倉庫とアトリエを両立できる今の物件を紹介していただきました。この建物もまた、いかにもぼろかったのですが、小さな切妻屋根の建物のフォルムがかわいらしく、思い切って改修してみようという決断にいたりました。
3方を山に囲まれた自然豊かな静かな住宅街となっていて、仕事に集中できる環境も気に入りました。
出来上がった後には、ささやかな内覧会を開催し、近所の人にも来ていただき、「おぉー、きれいになったね。」という言葉をいただきました。
手持ち資金をはたくのは大変勇気がいりましたが、やって良かったー。