Memo

ル・トロネ修道院

この建物の存在については、ことあるごとに耳にしてきた。
思い返せば今まで、絶賛しか聞いたことがない。
ル・コルビュジエが、ラ・トゥ-レット修道院を設計する際に、クライアントに参考にするように頼まれ、インスピレーションを受けたという話は聞いていた。
また、建築士の試験にでてくるような過去の名作の写真の中でもひときわ光を放って見え、私の連れ合いも旅行の目的地候補を選ぶ際に、いの一番に挙げていた。

そんなこんなでまさしくミーバーな気持ちで訪れたのですが、この建物での体験は事前の期待をはるかに超えていました。以下は私の正直な感想と付随してきた思いです。

初めてル・トロネ修道院を訪れた時、
そこにあったものは美しい空気の中で美しい石が美しい秩序で丹念に積み上げられたこの上なくシンプルな在り方でした。
「美しい」ということはこんなにも簡単なことだったのか!!と目から鱗が落ちるような思いがありました。
結局のところ、美しいものは言葉で表現することはできません。表現するものですらないようにも思います。
ただすでにそこにあるもの。沈黙せざるを得ないもの。。。

ル・トロネ修道院の在り方は現代の建物の在り方に対する強烈なアンチテーゼでもあると私は思います。
私たちが暮らしている建物は、「性能」という言葉に取り囲まれています。「耐震性能」「温熱環境性能」「防犯性能」「省エネルギー性能」etc
私は、言葉や数値で表現されたものばかりが偏って意識されてしまうという意味でその在り方に違和感を感じています。とはいえ、「性能」という視点を蔑ろにするつもりは全くありませんが。

私たちが作るものには私たちの意識がストレートに反映されます。「家」は自分の価値観の優先順位がそのまま表れるものです。
多くの人が当然の欲求として、安全で、快適で、綺麗で、維持費のかからない、自分の趣味に合う家をリーズナブルなコストで手に入れたいと考えています。
私たちはそのようなお施主様の要望に全力でお応えしたいと思います。
同時に、
お施主様の要望に対して、もし私たちが違和感を感じた時は、それが仮に私たちのエゴから生まれた内容であったとしても、直視して曲げずに表現してコミュニケーションを深める努力をしたいと思います。そのことで結果的に、お互いに成長してより豊かな道へと進むことができるのではないかと思うからです。
ほんのわずかな勇気を大切に仕事をしていきたいと考えております。

実に浮世離れしたル・トロネ修道院のイメージは、「お前、弱きに流れるなよ」というメッセージとなって私たちの中に残っております。

ル・トロネ修道院
住所:83340 Le Thoronet, フランス
電話番号:+33 4 94 60 43 90
アクセス:近くの村 レザルクから車でおよそ20分
最寄り駅:Gare Des Arcs - Draguignan
おすすめ関連書籍:「石と光 シトーのロマネスク聖堂」 六田知弘著 平凡社