Memo

自然物と人工物について

養老孟子は、本の中で、「自然」と何か、「人工」とは何かについて述べている。
すなわち「自然」とは人間の意識が作らなかったものであり、「人工」とは人間の意識が作り出したものだと。
そして、人間の体は、意識が作り出したものではないので、「自然」の方に属している。
これは、誰もが納得できる言葉であると思う。
対して、住居を含む「建築」は、人間の意識が作り出すものであるから「人工物」であるのは言うまでもない。
あらためて思い返してみて、私たちが、建築を考えるとき、人間の「自然性」について、どれだけ理解していて、どれだけ寄り添うことができているだろうか?
近頃は、建築物に「性能」を求める向きが強く感じられる。
具体的には、省エネルギー性能と耐震性能だ。それらは、明確に計算することができるもので、誰にでも理解できる価値でもある。
一方で、確かな性能を約束してくれるサッシのもつ人工的な印象は、庭の一部として見たときは、とても不自然に浮いて見えることが多い。
昔の隙間風の多い軽やかな木製建具の方が、はるかに庭と調和する。
木製建具を、性能の良いサッシに変えるということの背後で、「省エネルギー性能」という価値が得られる変わりに失われるものの大きさを忘れてはいけないと思う。
人間は風を感じ、揺れる木漏れ日の下で、生きていることの有難さを感じると思う。
ヒートショックで死ぬのを防止するために、自然との交感の機会を奪うというのでは本末転倒に感じられる。
高い省エネ性能で、電気代が安くなっても、遅かれ早かれ死ぬことには変わりないのだから。